「目標実現とヒプノセラピー」


先日、大掃除をしていたら、数年前に書いた『自分の欲しいもの・やりたい事のリスト』を見つけました。もう書いたことすら忘れていたそのリストを見て、今どれだけ実現しているかを調べてみると、80%も実現していました。


このリストを書いた頃を思い出すと、理想と現実のギャップの中で「自分のやりたいことはもっと違うことだ。どうしても、これが実現しないと…」と切実な思いでした。願望実現に向けての努力も続けたし、思いつく限りのことはやってみたけれど、どうあがいても『自分の夢』に到達する手段や方法が全く見つけられずに、途方に暮れてしまいました。そしていつのまにか、そんなものを書いたことすら忘れてしまっていたのです。


今このリストをみていると、なんだか不思議な気持ちになってきます。建物を建てるときにはまず設計図を書くように、『自分の夢』を紙に書いた。しかし、何の変化も起きません。そして、忘れてしまった頃にそれが自分の手元にすでにやってきていたことに気付いたのです。


リストを作った時は、これが実現してくれないと人生がどうにもならないという思いで、夢に執着していました。リストのことを忘れてしまった時に、私の中で夢に対する執着を自然と手放すことができていたようです。


夢がちっとも実現しないことに嫌気がさして、『自分の夢』に向かって進むことを全くやめてしまうのは、夢を捨てるのと同じ事です。これでは何年経っても何も起こらないでしょう。


大切に育てた魚の稚魚を放流する時期がきたのに、他の魚に食べられてしまうことを恐れて放流しないとどうなるでしょう。稚魚は全く成長しません。思い切って放流すると稚魚は海まで下っていって、何年後かにびっくりするほど大きくなって元の川に戻ってきます。この場合放流するということは稚魚を捨てることとは違います。稚魚を捨ててしまうとということは、もうそこで漁師を辞めて、その後毎日網を入れる作業をしないということです。それでは何も受け取ることができません。


『執着を手放すこと』と『捨てること』は違うのです。


『自分の夢』を具体的な形で明確にする。例えば紙に書いておく。すると二つのことが起きます。一つは前述したように、手放した後に大きくなって戻ってくる。もう一つは、苦しい時に夢があなたを引っ張っていってくれます。でもその夢が大きければ大きいほど、実現するまでには、苦しいこと、つらいことがたくさんあるでしょう。そんな時に、どんなふうに難局を切り抜けるか。それについてお話していきましょう。


方法はいろいろありますが、ここでは先日来た、クライアントのお話を紹介します。麻紀さん(仮名23歳)は美容師です。髪を金髪に染めて、青いカラーコンタクトをしています。一見派手な風貌ですが、よく見るとおとなしそうな性格なのに、明るさを装っているような印象です。彼女は職場の人間関係がつらくて2ヶ月前に美容師の仕事を辞めてしまったそうです。今はコンビニのアルバイトをしているといいます。でもいつかまた美容院で働いて、将来は自分の店を持つのが夢だそうです。


仕事の事で悩んでセラピーにくる人に「本当にやりたい事は何ですか?」と聞いてみると「わからない」と答える人が実に多いのです。やりたいことがみえていないのは、『設計図』のない建築現場のようなものです。どんな建物になるのか、いつでき上がるのか、全く見当がつきません。


先日、ある一流の美容師の方とお話する機会がありました。彼は全国でプロの美容師を対象にカットの講習会をしています。私は質問しました、「あなたのように腕のいい美容師の場合、お客さんの髪を切りながら、インスピレーションに導かれるように手が動いていって、ヘアスタイルができ上がっていくのですか?」


すると彼はこう答えてくれました。「インスピレーションの流れに任せてカットしていくと、例えば一つのインスピレーションが入ってきて前髪を切ると、今度はそれに合わせて全体に手を加えなければならなくなります。そういうやり方をしていると、時間がいくらあっても足りなくなります。ですからまず、最初にお客さんの頭を見た時に、カット後のヘアスタイルの青写真をつくってしまうんです。そうしておけば、あとは自分の頭の中の青写真に近づけていく作業だけに専念できるので、短い時間で理想のヘアスタイルを実現できるのです。また、駆け出しの新人の時、後にお客さんが待っていないからといって、『時間をかけていいんだ』と考えているといつまで経っても上達しません。いつも、10人のお客さんが予約で待っているというイメージを持って仕事をしていると、やがてお客さんが殺到するような美容師になることができるのです」


この話を麻紀さんにすると、同じ美容師である彼女は深くうなずいています。「麻紀さん、あなたのように将来の夢がはっきりしているなら、青写真がもう半分完成しているようなものです。後は、より具体的なイメージを青写真に付け加えてその青写真を完成させていくことが必要です。それができれば、その青写真に近づいていく作業をしていくだけです。でもあなたの場合はこの作業の途中でやめてしまったのですね」


私、負けず嫌いなんです。前の店では、オーナーの娘がわがままで、言ってくることが気分次第でコロコロ変わるんです。好きな美容師の仕事のためなら夜遅くまで技術を練習することも苦にならなかったけれど、こんな人のために働いて美容と関係ないことのための苦労なんてしたくないと思って、辞めてしまったんです」


どうやら麻紀さんは、自分の感情を一番に優先してしまったようです。これはみんながやっていることですが、それが私たちの問題を作り出しているのです。国と国との戦争から子供同士のケンカまで、ありとあらゆる問題の根本にこれがあるといっても過言ではありません。


現実世界において、そこから少しずつでも抜け出していく具体的な方法が一つあります。それは、自分の感情よりも「より良い自分に成長するための何か」を見定めて、そちらを優先することです。麻紀さんの例なら、オーナーの娘との間で感じた怒りや屈辱的な感情を、自分にとって一番重要な決定要素とみなすか、それとも将来お店を持ちたいという自分の夢に向かって、今できる最善の一歩を優先するかということです。


自分の人生を振り返ってみてください。大切な人間関係や人生の正念場において、一時の感情で、なにもかもぶちこわしにしてしまったことはありませんか。そういった時は、どんな犠牲を払ってでも自分の感情を満足させることが一番重要だと感じてしまうものです。


こんな時、『夢』を持っていると、夢があなたを引っ張っていってくれます。怒りで他に何も見えなくなってしまっているあなたの目に、本当に進むべき道を指し示してくれます。


「わがままで気分屋の上司の下で悩んだ経験は、今後あなたが部下を持った時に、きっと役にたちますよ。そして、将来美容院を経営していく時にも、わがままなお客さんと上手に付き合っていくことが必要になってくるのではないですか。前の店で、人間関係で苦しんだということは、『今のあなたは人間関係でこの分野が未熟だから、人間関係の技術をここで練習してください』という、『あなたの夢』からのメッセージなのです。


オーナーの娘についても同じ事が言えます。将来は自分の店になる職場で『上手に人間関係を築き上げて、自分の部下たちの力を引き出すことでより良い店にしていく』、これが彼女の本来の夢だとしたら、彼女は今、自分の夢よりも自分がお姫様のように扱ってもらうことの方を選んでしまっています。


麻紀さん、『私は自分の技術を磨きたいのに、こんなことのために働いているのではない』と思っていると、例え技術が上達しても、自分の苦手な人と上手に付き合っていく方法を習得できないままです。世の中にはいろいろなタイプの人がいます。社会の中で仕事をしていきたいと考えているなら、気の合う人だけと付き合っていくことは不可能に近いことです。ましてや経営者ともなると、到底自分の個人的感情や気分に任せて仕事をしていくわけにはいきませんよね。そんなお店は、遅かれ早かれ行き詰まってしまうでしょう。


自分の感情や気分の方を大切にしてしまうと、その時あなたのプライドは満足しても、『あなたの夢』が尊重されていません。あなたはオーナーの娘と同じ事をやっていますよ。今はあなた自身がお姫様のようになっています。相手への怒りにとらわれて、『私をそんなふうに扱うなんて』と癇癪を起こしているのです。あなた自身がお姫様になってしまうと、『あなたの夢』は、実現することを手助けしてくれる人を失ってしまいます。代わりに、あなたがお姫様の座から降りて、『あなたの夢』をお姫様のように扱ってあげませんか。あなたが苦しい時、美容の技術以外のことで悩んで『私のやりたいことはこんなことではない』と思えるとき、あなたの夢に尋ねてみてください。『お姫様、私に何をすることをお望みですか?』と。」


その後『夢を自分のお姫様にすること』がスムーズにできる助けとなるように、オーナーの娘を許すセラピーを行いました。催眠状態に入って心の中を深く見ていくと、気分屋で虫の居所が悪いとヒステリックに子供をしかりつける母親を、彼女はオーナーの娘に投影していたようでした。


麻紀さんの顔に微笑みが戻り、徐々に明るくなっていきます。一度は自ら背を向けてしまった夢を、自分の中に取り戻したようです。


「自分はなんて可哀想なんだろうと思っていました。でも実は自分の感情ばかりを大切にしていたことには気が付きませんでした。なんだか希望とやる気が湧いてきました。これからは夢を自分のお姫様にしていきます」麻紀さんはニッコリと微笑みました。瞳の奥に、今まで見られなかった意志の輝きが感じられます。


「これから何か問題に直面するたびに、自分自身に尋ねてください。『自分の感情と自分の夢の実現とどちらを優先するのか』そして、夢の実現への一歩を選び続けていってください。そうすれば、あなたは常に前に進んでいくことができます。やがて、相手への怒りを手放すためのセラピーを受ける必要もなくなるでしょう。夢の実現への一歩を選び続けることによって、あなたの成長に不必要なものを手放すことが自然と上手になっていくからです」


みなさんもまずは『自分の夢』をリストアップしてみませんか?